[あの日のまま、彼の首へ締められたネクタイへ暫し視線を投じた。外されなかった。それが何も意味せぬものであるとしても今、ここにこうして彼が存在していること、その事実に安堵する心が在り。否定の言葉に力はない。歯列で修復した舌をなぞり、唇へ付着する紅を舌舐め擦りしてから、] ――嘘をつく必要が、在るか? ……まあいい。お前が生きていた、それだけで充分だ。[直接、言葉を発して薄く笑った。朱に濡れた指先を掴んで、口許へと運び]