[渡された紙片は二枚とも、中味を覚えこんでから捨てるだろう。
物は持たない。
“ 持ち去ることもなく すがることもなく
朽ちたものたちを 眠るべき地に 葬り
その身一つで ただ ”
――…
一度だけ、小さく息をつく。
右手に下げたバイオリンを持ち直し、ここまで案内してくれたベルティルデを案じさせないよう、静かに。
彼女と、あるいはもし近くを通る者がいたとしたら、言葉を交わすこともあったかもしれない。
医務室のドアを開けたのは、前の患者の診療が終了したと確信できる、十分に時間が経った頃合いだったろう。*]