― “彼女”の家へ ―
[街を往く馬車は、馬の足よりも疾く駆ける。その姿は戦いの場へ向かった際とはだいぶ様相を変えていた。
普段は主人の趣味のまま、人の世でよく見られる二頭立ての四輪馬車を模していたそれは
姿を変えることを止め、疾走る事のみに、能力を注いでいる。
その姿を確認することが叶うなら、馬車を繰る首なき御者と首なし馬を見とめる事ができるだろうけれど、姿を模すことを止め駆ける早さが、人の目に止まる事などあるはずもなく]
少し君の血を貰いたいんだけどいいかな?
[霧を切り裂くように進む馬車の中、“彼女の家族”を連れた男は共に乗り込んだ者に問う。
問われた相手は男の血子ではなく、首筋を抑えて浮かべる表情は警戒の色に染まっている]