[唇を軽く押し付け、触れ合わせる。
そして下唇を軽く喰んだ時、女は自分の牙で男の唇へ傷を付けた。
小さな、小さな傷。
気に満ちた男の再生力なら、瞬きの間に塞がってしまうだろうか。
ならば漏れる血など微々たるもの。
その少量の血を舌で拭い、女は男から距離を取る。
咥内に拡がる錆を味わいながら、人差し指を口元に当てて薄く笑った]
―――お礼は、コレでいいわ。
今度から周りに気をつけるのよ、お兄さん。
[指を離せば軽く手を振り、その場を去るため背を向ける。
声をかければ振り返るだろうが、そうでなければそのまま闇へと消えるだろう*]