[宿を出れば、よく見知った少年の顔を見かけて。
声の代わりに片手を上げてみせたけれども、相手が気付いたかどうかは知らん顔。
気付かなかったならまた後でと、幾らか重さの減った袋を背負い直した。
幾許か口元が緩むのは叺が軽くなったからではなくて、オットーへと頼んだ「依頼」>>75のせい。
何時も客の期待に忠実に答える彼のことだから、きっと戻ってみれば完璧な仕事をしているのだろう。
――…それに、もしかしたらまだ今冬は顔を見ない昔馴染みの旅人もいるかもしれないから。]
…他へ顔を出すのは後回しでもいいかねえ。
[つい言い訳地味た口調になるのは、オットーの焼いたパンが食べたいと素直に口にしたくないから。
……雪を見て燥ぐ子供じゃあるまいし。]