[特に誰に聞かせるでもなく、呟く。 とはいえ、彼女がパンの味に満足してくれているらしいことは分かる。だからこそ、ここに自身のパン屋としての欠点が浮き彫りになる。他人の理想を借りることしかできない自分には“期待通り”には為せるものの、決して“期待以上”の提供はできないのだ。味に満足されている以上は、それ以上のおすすめなど自分には導けないのかもしれない。 と考えつつも、それが癖になりつつあるのか、相手のおすすめを聞きたいという期待を自分のものにする術を模索するのだった。]