[学館に入り、緊張していた自分を解すように
気さくに声を掛けてくれたマーティンの顔は、今でも覚えている。
その後、キールの正体を知ったのか――教師の立場で、影ながら色々と気にかけてくれた。
春に足踏みしている冬の終わり。
女学生たちが、密やかに楽しげに喋り合っている事柄があった。
気持ちをお菓子に託して贈る、外の国の風習があるのだとか。
愛しい人へでもいいし、日頃の感謝でもいい。
で、学館の教師たちに連名で贈るのだと
彼女たちは密やかなる相談をしていたという訳だった。
『キールもどう?』
同世代の少女にこんな風に誘われるのは、
まだちょっと、慣れない心地。
それでも自分も感謝は伝えたかったから、
一緒に混じって街のお菓子屋を巡った]