[相手は声を出したかもしれない。
身体を押さえ付ける利き手には短剣を。
片方の手でその口を塞ぎ]
ちょっとの間、動かんといてもらえます?
できたらこんな形で死んでほしないんで。
[その声のトーンは普段と変わらぬまま
相手の柔らかな頸動脈に沿うように短剣の刃を押し当てる。
刃を立てて、それを引けば…──。
想像するだけで気持ちは躍るというものだが
男にはまだ彼にしてほしいことがあった。
そう、遺書。
さすがに国の権力者が相次いでなくなれば動きづらい。
次を考えればこそ、遺書の存在は必要であった。]