[その人に会えないか、と思った時期もあった。兄の話を聞きたかったのだ。兄が士官学校に入って以降は会う機会も少なかったから、艦の中でどんな生活を送っていたのか、何を感じ、何を楽しみにしていたのか。自分は兄の言葉でしか知らないから。けれど風の便りにその人が兄の死以降、煙草を吸うようになったと聞いて、男はその望みを胸の裡に収める事にした。兄の遺体を見ただけで自分は衝撃を受け、血が苦手になった。息を引き取る瞬間を目に収めた彼は心に深く傷を負ったのだろう、と。]