[適当に呼びやすいように呼んでいい、という言葉に、目を丸くした。
ううん、と考え込んだのは、恐縮と遠慮ゆえではない。]
歳は、そうですねえ、俺は多分二十五とかそれくらいですかね。
大して変わらないと思います。
でも、そうだなあ……
じゃあ、ガートルードさん、で。
[にこ、と顔を上げる。
名前で呼ぶ人はたいてい呼び捨てだけれど、さん、を付けた。]
呼び捨てになんざしたら、上官にぶっ殺されるとか、
そういうわけじゃないんです。
いや、それもちょっとはあるんだけど。
なんていうのかな、
階級ってのはそりゃあ服に着いた飾りかもしれないけどさ、
そういうんじゃなくて。
――なんだろ、なんとなく、うん。
[人の心を推し量ることには全くと言っていいほど長けてはいない。
それでも、“ここも、既に戦場に足を踏み入れている”と言ったその声の色だとか、口調が。>>215
この空域に入った折に、外の星が見たいとだけ呑気に考えた自分とは、やはり内に負う者が違うのだろうと、そう感じていた。
それが職務による責任由来のものなのか、違う何かであるのか、そのようなことは分からなくとも。>>218
地位そのものに対するそれではなく、距離でもなく、そのひとに対して何かを表したくなるような、そんな敬称。
――そんな自身の内心すら、漠然としてどうにもつかめていないわけなのだが。
それでも、名前を呼んで、うん、と頷いた笑顔は晴れやかなものだったろう。]