― 宿 ―
[午前中にも手続してすぐ部屋に入れたのは幸い。手持ちの路銀でも数日は泊まれそうだ。
身の回りのものを整理して、身支度を済ませ――何せ昨日は道端でそのまま丸まって寝ていたので、色々酷いことになっている――人心地がついたところで、さてどうしようかと寝台に腰を下ろす。
洗いざらしの髪は肩にばさりと下ろし、着がえた服は、シャツと細身のジーンズ。どちらもやはり黒一色]
ああ、何か食べた方がいい、のかなあ。
[昨日山道で携帯食のご相伴に預かってから、何も腹に入れていない。水分だけはとっていたけれど。
夢の中に出てきた豪華な朝食は、結局食べそびれた。
大荷物を手に、階下の食堂へ。貴重品は身に着ける、どんなホテルであれ旅館であれ基本中の基本だ。そのサイズが規格外なのは、これはもう仕方がない。
クロワッサンとコップ一杯のミルクを盆に載せ、テーブルに。
昼時を過ぎた食堂には、ちらほらと人がいる。
本を手にした男を見かけた>>230。食堂に本とは珍しいが、ピークを過ぎているから、そのまま喫茶店のように時間を潰しても構わなさそう。
傍を通り過ぎれば、目が合うことはあっただろうか*]