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[>>223怖がるカシムを、何処か諦めてしまったようなレトの血を啜った。―それは自分で決めた事で。
最後に見たレトの表情。その瞳には酒宴の時と同じように光はなかった。
―かつて伯爵家で暮らしていた頃の男のように。
酒宴の後、廊下で泣いていた彼をソマーリュに任せ、男は一人、ラウンジに行って夜空を眺めていた。
衆目の前で王子に与えられた痛苦に耐え、その後に泣きだした彼の姿を見て浮かんだ、どうにもならぬ感情を持て余して。
だからレトがその夜の事を「覚えていない」と言ったのを聞いた時、男は何も見なかった事にした。
あの宴でレトは何も自分に晒してはいないのだと。
だからオズワルドに問われても曖昧に誤魔化し。
時折からかいながら、脳裏に焼き付いたあの時の表情を塗りつぶそうとした。]