― 酒場 ―
[宿を出ると、わたしは食事のために酒場へ向かった。
食堂はまもなく店じまいをする時間だ。遅くまで人がにぎわう店に行けば、新たに何らかの情報が手に入るかもしれない]
…ちょっと、食べづらいけどね…。
[顔に貼った湿布が邪魔をして、口を開けるのも困難だが痛みはほとんどない。
雑多に賑わう店内の卓を抜け、カウンターの席に着く]
…あら、あれは何かしら?
[背後を振り返って人だかりができてる方を見れば、ちょうど拍手が沸き上がって、楽し気な歌と曲が聞こえてきたところだ]
へぇ、今夜は吟遊詩人が来てるのね。
[カウンターの中の店員と短く会話を交わして把握する。
流しの吟遊詩人による歌の披露は、この街の娯楽としては珍しい光景ではない。
かつての故郷の有様とは、それだけで随分と異なる]