− 回想 −
[ 新元首の人となりを確認すべく、ゼファーへ表敬訪問に行った時のことだ。
あちらでも、歓迎の宴をひらいてもてなしてくれた。
食卓に並べられた食事は、木の実や蒸し肉など、噛みごたえのありそうなものが多く、これは日常的に顎が鍛えられるだろうな、などと分析したものだ。
プラメージであれば、どの土地の小麦である等と説明されるところ、ゼファーでは「誰が狩った鹿である」といった紹介がなされていたのもお国柄であろう。
誰かと乾杯をしたい場合、王国では、相手に捧げる祝辞や詩の朗読があって、相手も戯曲や古典を引用して返礼するのがゆかしいとされているが、ゼファーでは相手の名を呼ぶや、空の杯を投げつけていた。
鉄製だから当たれば相当、痛いはずだ。それを悠然とキャッチして、給仕の少年兵に酒を注がせて干す、というのがゼファー方式だった。
もっとも、文弱な王国の徒を驚かせようとして、仕組まれた悪戯だった可能性はある。]
間違って、杯ではなく肉切りナイフを投げてしまったりは?
[ 隣の席の新元首に訊ねたのは、老婆心からではなかった。*]