―宿屋・厨房―
[砂糖と混ぜて適当に煮詰めていれば、やがてどろりと粘性を持つジャムが出来上がったか。
誰かの気配がすれば少し顔を上げもしただろうけれど、作業に没頭しやすい青年は声をかけられでもしなければ応答しなかっただろう。]
――…ん。上出来。
何か詰めるものは……お。
[誂え向きに棚の上に幾つかの瓶が乗っているのを発見し、丁度いいやと拝借することにした。
もし、何かに使う予定だったなら後で宿の女主人に謝っておけばいいやと楽観的に。
手早く煮沸して、流し込む液体の色は――赤。
皮を剥かずに林檎でジャムを作ると、元の果実と同じ、鮮やかな色のものが出来上がるのだ。
食料の少ない冬の間は皮ですら無駄にはしたくないもの。
幾つかに分けて蓋をすれば、こいつも「お裾分け」かねえ、なんて暢気に考えていた。]