[一刻も早い夫の回復を願って、火精から贈られた地熱>>230
何に使うのかと訝しんだのも束の間、魔人形の知識と献身を生かし、
館の庭に湯の滾々と湧き出る泉が出来上がった。
人間の里で、似通った仕組みを目にした事はあったが、自宅に造成されるとなると意味合いが変わってくる。
今宵も今宵とて、湯煙に寛ぐ夫の背中を暫し眺めてから、心を決め]
――……貴方。お待たせ、しました?
[足音を忍ばせ近寄ると、声と同時、そっと手を伸ばして背後から眼鏡を拝借する。
未だにこの習慣に慣れぬ身を隠す羽織、それ一枚では、月明かりの下心許なく]