――心得ている。
[「汚すなよ」と言われれば>>218、清流のような声色で応える。放たれた声は夜闇の鎖に絡め取られるかのように、影へと溶けて消失した。]
悪いね。既に知っているかもしれないけれど、僕は気の利いたことが言えないんだ。
――僕には感情が存在しないから。
[近寄りながら、呼吸の一部であるかのように、まるで店で接客しているかのように、平然と告げる。告げられた声に、ニコラスはどのような反応を示しただろうか。]
せめて、君が苦しまないで散ることを願うよ。
[口先では告げるものの、実際にはニコラスに対して何かを願うことなどできないのだった。そのような感情は持ち合わせていない。
己は先日ヤコブに対して放ったような殺気>>2:170をニコラスへ向けようと、その瞳を覗き込む。しかし、それはすんでのところで思いとどまった。
窓から差し込む光が彼の髪を、肌を滑り、雫のように堕ちていくかのように見えるのだった。艶美な月の光のようで、それでいてどこか禁忌めいていて、感情を持たないなりに、殺気などという無粋なものを向ける気にはなれなかった。
――それならそれで、構わない。