― 中庭・本部近辺 ―
[空を『とおい』と称するには、少々厄介な理由がある。一言で言えば、『血筋の軛』だ。
ヒッツェシュライアー家には『鏡の兄弟精霊』と称される家付きの精霊たちがいる。
代々の当主となる者は大抵は長兄とされるゾンネと盟約するのだが、時折、その例に漏れる場合が生じる。
そして100年と少し前、末弟シュテルンと盟約した次期当主候補の娘が出奔し、そのまま異郷の地で帰らぬ人となって以降。
次兄モーントと盟約した次期当主候補には、ある種の呪縛がかけられるようになった。
異郷へ飛んで行かぬように、空に近づけぬように。
飛翔に関わる術を身に着ける事ができず、また、長時間空にある事で負荷を感じるようになる呪詛。
特定の誰かが生じさせたわけではなく。
ただ、喪った事への複数の嘆きがより集まり、編んでしまったもの。
幼い頃に父と共に在る太陽ではなく、その横の月に手を伸ばしてから絡めとられたそれは、仔竜の願いを真っ向から否定するもの。
故に、仔竜は仔竜なりのやり方で、その呪詛を祓おうとしている――のだろうけれど]
…………無茶、しすぎでしょ。
[ぽつり、と落ちるのはこんな呟き]