[なにやら、思い出すように眼を細めていた男は、
妹の声に誘発され、弾かれたように面を起こす。>>227]
――――ッ、琉璃。
怪我はないか、ほら、手を出せ。
[あっ、と一瞬湧くテーブル。
その声を聞きつけて慌ててやってきた店員にも構わず、
兄は即座に妹の手を取り上げて、ハンカチを宛った。
白出汁の香りが移る椅子よりも、彼女の怪我に気が傾いた。]
何をぼんやりしているんだ、痛いところはあるか?
火傷をしたなら後で薬局に寄ろう。
[濡れてしまった椅子を下げる店員に改めて頭を下げ、
緩々と指先で彼女の掌を慰めつつ服の無事を確かめた。
如何にも妹は大豆運がないらしい。]