― 回想:紅華軍本星基地内某所 ―
[ベネディクト・チャン准尉が、所属する紅華軍の特級機密事項を手に入れてしまったのは、全くの偶然であった。然しながらその内容は、士官学校を卒業して半年も満たない若者が抱いた軍への信頼を失墜させる、また彼の真直な正義感を奮い立たせるには充分なものであった。]
『ケルベロス計画』……ガルー種の兵器転用だって……?
そんな事……決して実現させる訳にはいかない……!
[チャン家は代々連邦議会議員をはじめ、政府の要職を輩出してきた名家である。その家の三男坊として産まれた彼は、50年前のチグリス会議に出席していた祖父より、ガルー種の恐ろしさを事あるごとに聞かされていた。
正義感に衝き動かされるままに、機密データをコピーしありったけの有休を注ぎ込んで本星から逃げ出したのが3日前の事であった。]