[生々しい吐息が近く、ネロリの香が貪られていく。
彼を支える片腕は、決して膂力を発揮している訳ではないのに、巌のように動かない。戸惑いは腕の中、発した怒気さえ擁し、些細なリップノイズが節を置く。
普通の人間種で在れば、天の怒りに触れたと知った途端、跳んで退き、罪に慄いて、罰を恐れるだろう。だが、彼を抱く老年はそのような殊勝を一抹も見せることなく、鼻先を触れあわせ、彼の眼窩に嵌る蒼穹を覗いた。]
……なるほど、神が後生大事にしているだけはある。
何処も彼処も、完璧な黄金比だ。
[背を抱く五指を立て、僅かに指先が動いて彼の形を確かめる。
受肉していない身体ながら、歪みも偏りも一切見当たらない。
まるで、美術品でも見分するかの男は、彼の開いた唇へ軟体を滑り込ませ、罵声ごと押し返し、肉体の内から侵食。>>190
人と接触する為に、人のように創られている天使を理解し、彼の口内で濡れた音が跳ねる。鼓膜を内側から揺らす音色は、男が立てる卑猥な触診の。]