[今年も香辛料をオットーに売ってやろうと企んでいたのに。
出鼻を挫かれたアルビンは頬を掻いた。
もしも、オットーがパン屋に居たらアルビンはこう声を掛けただろう。去年、アルビンが店に来てオットー一人しか居ないのを見て言った台詞と同様に、「親父さんは居ないのか。お前一人でも大丈夫なのか。」
冗談半分、残りの半分は本気でそう思って。幼い頃のアルビンはおっとりしたオットーのことをのろまだとからかった事もあっただろう。
幼馴染みとは言え、アルビンが村を出てからは交流は随分と減った。アルビンの中ではオットーは子供のままなのだ。
今でもパンを焼いたと聞けば、焦がすんじゃないか果ては火事を起こすんじゃないかと揶揄う。
今朝オットーがウェルシュケーキを焦がした事は知らないが、彼の父親が店を任せる程に信用しているという事もアルビンは気付かないでいる。]