[ 通信の相手の名前を聞けば、
嫌な予感がしなかったといえば嘘になる。
セルウィンを殺害したのは"彼"以外では有り得なく、
もしかしたら…、未だ平静を取り戻していないかもしれず。
だから――、名前を聞いたとき。
どろどろと殺気が流れ出そうになるのを笑顔で堪えて、
開けてしまった不自然な間を何でもないように流した。
実際に、彼女が不思議そうな顔をしていたから、
少し考え事をしていただけだと誤魔化しすらした。
ロー・シェンの苛烈な衝動は時に自分に似た存在にも向く。
…なればこそ、"彼"に対して彼女が傷つけられたばかりの
今の状況下では警戒心を抱かざるを得なかったのだった。
…それら全ては。笑顔の裏の闇に潜めたままで。 ]
……きっと、大丈夫。
[ 一瞬だけ、彼女の貌に現れた
怯えとも不安ともつかない色を消してしまえるように。
叶うならば、彼女の小さな手を掴んで――握り締めて。 ]