[手紙の内容は端的に纏めれば、娘のファミルとの縁談の打診だ。「何も独り身でいなくとも」だの「どうか後継者を」だの、請うような言葉が並ぶ。]
父はどうすれば貴方が頷いてくれるだろうか、と
文面で随分と悩んでいました。
[ファミルから数えれば先々代当主にあたるファミルの父が、ゲオルグ・ヒューペンターその人にこのような打診の手紙を出すのは、これがはじめてでもない。
父が若い時分には、叔父に領地を任せ、海軍に所属していたというのもあるのだろう。各地に向かうゲオルグ・ヒューベンタールの活躍を、まさに英雄譚でも聞くように楽しみにしている人だった。]
できればお話を、と思うのですが。
……
場所を変えましょうか。
[その場で開封されるかに関わらず、ファミルは人通りへ一度視線を走らせて、フードを被りなおした。先導するのは、アンディーヴ家がカリコル島に持つ別荘に向けてだった。]