[掌に血珠を乗せ、泥の中に倒れ伏すディークに歩み寄る。
バランを討滅したことで、破壊衝動に駆り立てていた血の絆の強制力が失せたのだろう、彼は糸の切れた操り人形のように動かなくなっていた。
そこにいるのはもはや荒れ狂う獣ではなく、疲弊し、傷を負った、転生したての幼子に過ぎない。
泥で汚れるのも構わず、抱き起こし、腕の中に抱き取る。
泥にまみれた顔は、消耗の色が濃い。
疲労が目に見えるほどの影となって色濃く落ちるまでには、一体どれほど過酷な境遇に置かれたのか。
知性の感じられない、動物的な反応は、殆ど血を口にしていない、渇きのもたらす狂乱の所為だけではなかろう。
何からの理由で、理性を奪われ、心を破壊されたのだ。
伸びやかで強靭な四肢、全身の筋肉のつき方から見て、バランの手駒に変えられる前は、ひとかどの戦士だったのではないか。]