―― いつかの昔 ――
[男は負けた。ただの負けならばいい。再起という道もある。
だがそれは、男がよりどころとしていたものを奪う負けであった。
大怪我をした。
リハビリをしても、元の格闘家としての道は閉ざされるであろう、そんな大怪我。
自分にとって一番自信のあった基盤の崩壊。
医者に今の状態を告げられた男は大変落胆した。
妻は、男を支えようとしてくれたのであろう。
男はその時のショックで記憶がおぼろげになってしまっているけれども。
だが、ショックによる落胆はやがて自暴自棄となり、妻や娘に向かって酷い言葉を投げつけたかもしれない。
気付けば、男の妻は娘と共に男の元からいなくなっていた。
それに気付いた男はさらに衝撃を受けて、まともに思考が回る頃には時既に遅し。
守りたかったモノは手の中から零れ落ちてしまっていた]*