[それら戦うものどもの上を、竜は飛んだ。変わり果てた兄弟らを斬る男の激情を嗤い、燃える宿営地の上を一度飛び越し、人間どもが立て籠もろうとしているモーザック砦の旗に影を落として旋回する。夜空高く飛ぶ黒竜など人間には見えなかろうが、竜の背には魔の光纏う王が在った。光に縁どられた竜の影絵は、地上からでも見えたことだろう。] 怒りと恐怖の声が聞こえる。 血と死の匂いを感じる。 これは良い。実に心地よい。 我の心まで躍るようだ。[風の中で高らかに笑った魔王は、ナールに指示を下す。]