― 三年前 ―
[ ナイジェルは、三年前、一度だけブリュノーの王都アマンドを訪れた事がある。
その日はブリュノーの建国祭で、王都は観光客と祭りに浮かれる住人で溢れかえっていた。 ]
[ 建国祭の祝賀行事の一つに、王家の人々が王城のテラスに打ち揃って国民に手を振るという一幕がある。
多くの人々がその得難い機会を逃すまいと王城の前にひしめきあっていたが、その一角から、甲高い女性の悲鳴が響いた ]
『いやっ!返してーっ!』
[ 思わず視線を向けた先、数歩も離れていない場所に、地に倒れ、泣きながら手を伸ばす若い娘と、娘から奪ったらしい荷物を抱え、後も見ず駆け去ろうとする男の姿を見つけると、ナイジェルは迷う事なく駆け出した。 ]
待てっ!
[ 待てと言われて止まる引ったくりは、当然居ない。しかし声をあげた効果は意外な所で発揮された。男の背を追って走ったその先で、横合いから男に体当たりを仕掛けた者が居たのだ。 ]