―回想―
[父は、ふもとの街に出て働いていた。仕事の内容は聞かされていなかったが、なにかと遠出する事も多く、村に帰って来るのは月に数度。
母は、父の留守を守り、ほとんど女手ひとつで自分を育ててくれた。さして大きくない家で、小さな菜園で育てた野菜や鶏が産んだ卵を食べ、足りない分は父が持ってきた金で買う。
小さな村で暮らすには、充分だった。
その生活が変わったのは、15年ほど前になるか。
街に戻る父と共に出た買出しの隊が事故に遭い、突然の訃報がもたらされた。遺体は見つからず、埋葬されたのは空の棺。
放り出されたこども一人が食べていく方法など、よほどのお人よしに拾われない限り体を売る以外に無い。
孤児院に入るには、年も取りすぎていた。
……幸い、体つきはよく健康だったから、労働力として売る選択が取れた]