[一瞬、目の前のオットーの笑みが崩れた。まるで、泣き出してしまいそうな。どうして、そんな表情をするのだろう。でも一瞬だったから見間違えかもしれない。
絞り出す様に有り難うと言われてアルビンは何故だか胸が締め付けられた。大変な経験をしてきたんだなと言われれば笑ったまま頭を振って、]
大変な経験という程、大変な思いはしてないさ。なんせ俺は幼過ぎて記憶にないから。
それにその村では人狼は退治出来たんだ。もしも人狼が殺せなかったら今頃俺は居なかっただろうね。
人狼は村人を全員残さず食ってしまうらしいから、な。
[実際にこの村に来る前の事はぼんやりとしか思い出せない。ただ母親が前の処刑された父の事を涙ながらに話すから知っているだけだ。記憶に無い父親の死については悲しいとも思えない。
ただ、記憶の片隅には銀雪の村と同じ白い雪原が焼き付いている。
人狼を殺せなかった場合は自分は生きてはいなかった。
それは現在の自分にも言える事でもしも人狼が勝てば……その先は言わずとも伝わるだろうか。]