―バルコニー―
[耳元で囁かれた言葉>>178に、重なる記憶は陽炎のように。
彼女を抱く腕に、更に力が籠められる。愛しさは欲望に変わり、焦がれた血の香に酔わされる]
( 貴女が望むなら、喜んで )
[守られることのなかった、遠い日>>124の約束。
贖罪には遅すぎるけれど、貴女を攫ってしまいたい。
昔から、繊細なのに気丈に振る舞う子供だった。握りしめられた手を、握り返し、指を絡め。"行かないで"と縋る言葉に、応えるように。
滑らかな肌には滲む赤が映えて、見惚れてしまいそう。
舌先で舐めとれば、甘い。脳髄が痺れそうな程に、癖になる。
一滴の血液。渇きは癒されど、満たされず。
ずるい欲望に、本能に、身体は支配される。
貪るように彼女を求め血を喰らった。深く、深く。
ただ夢中に、愛しい人を気遣う余裕すらなく。
抱きしめる腕だけは、酷く優しく。
――乾いた筈の涙が一筋、再び頬を伝っていった]