―回想・教会の前―
…そうか。
まあ、村にいる間は、ゆっくりしていけよ。
疲れが取れないようなら、宿屋の温泉にでも浸かるといい。
[自分がシモンにされたように、今度は自分がニコラスに温泉を勧めた。
その効能はよく知られていて、村のちょっとした名物になっている。
自分に信仰心がないからといって、幼馴染のしていることを否定する気はない。
村に戻ればねぎらいの言葉をかけ、村を出るときには旅の安寧を願って見送る。
ただそれだけ。
かつてのように、ニコラスが旅先で見聞きしたものを共有することはない。
訊ねたところで、信仰心のない自分には身を入れて聞けない内容がほとんどだろう。
それはあまりに失礼に思えたので、自分から訊ねることはなかった。
それでも、3年前に足しげく見舞いに通ってくれたことを含め、村に戻る度にこうして声をかけてくれるニコラスには、ヤコブなりに感謝しているつもりだ。]