[花嫁衣装や新しい生活に必要な物の支度をしても余裕がある金額の対価に、男は数年間、教会の人体実験に協力する契約となっている。
――その実験の目的は魔物に対抗する戦士を育てあげる為。
被験体である男には、新たな力を生み出し、戦士に宿す為の礎になれ、と。
途中で死亡したとしても、事故死と言う形で処理される。その意思を示す書類には迷わずにサインをした。
男の仕事は街の小間物商。その稼ぎでは慎ましく生活を送るのがやっとだった。
妹は兄が突然知り合いに店を任せ、大金を用立てた事に驚いていたが、真実を隠したがる兄のついた嘘に最後には黙って頷いた。]
あー、俺今死んでもいいわ。
…まぁ、死なねぇけど。
[今死んでは教会に訴えられそうだが、強硬な態度には出るまい、と思っている。
魔物の存在や人体実験については大衆には知らされていない事実。
もしもそれらが詳らかになったならば、教会は少なからず民衆の反発を受けるだろう。
酒精に身を委ねていた男の目は不意に真剣な光を帯びる。]