――農夫の畑――
[近頃は、めっきり鍬を握る事も少なくなってしまった。
只の人間が老いに勝てる道理もなく、畑は教会で暮らす子のひとりへと譲った。今は継いだその子にあれこれと教えているが、元より手伝いに来てくれていた子だ、農具の使い方よりは種子の扱いを語る方が多い]
[息子が得意とした果実煮も、春夏秋冬いずれも作り置くならば、山の実りをそれと見抜く目がなくては難しい。地図を作ろうにも野山はあまりに広かったのだろう、息子が友人の鼻を頼りに駆け回っていた記録は、誰にも引き継がれず絶えてしまった]
[故に、作業の合間に三人で休息を取るときも、こうして二人で、祖父の日記を手本とし作物について語るときも――茶請けに出せる果実煮は、ひとつきり]
ああ、それか、それはね――
[畑の傍に植わった、この付近では見かけない>>0:176珍しい果樹。
卓上に遺されていた>>0:184息子の数少ない痕跡が、今年も多くの実りを齎している]*