[自分が勝利を収めることもあれば、敢え無くべしゃりと敗北することもあった。
戦利品を持って逃げたそのあとには、極めて大人げない仕返しが返ってきたものだ。
よく振った炭酸でスプラッシュとか。
覚え違いでないのなら、色のよく似た酸っぱい実(あれ、ウメボシ、とかいう名前だったらしい)を頬張る羽目になったような記憶もあったりする。
繰り返し仕返しされるところ、彼の方もまた、学習能力がないわけだが。
――もしかしたら、仕返しかもしれないというのは、ちょっとは分かっていて。]
あーくそ、やりやがったな!!
[炭酸が直撃して転げまわったり、謎の赤い実の酸っぱさに走り回ったりして、ひとしきり怒ったあと、結局最後は腹を抱えて笑ってしまうのだ。
自分はきっと、楽しかった、に違いない。
拾われた頃も、表情筋を笑顔の形にするというのはどうすればいいかはまあ、分かっていたので、
最初に構って遊んでくれたときには、多分そんな顔をしていたと思う。
まあ、そんなのは最初のうちだけで、数か月と立たないうちに甘味を狙う賊の誕生となったわけであるが。
最後に勝ったときは、名前を知らない菓子だったんだ。
船を降りて、惑星での暮らしにも少し慣れてきたころ、道端の店でよく似た菓子を見かけた。
“シュトレン”とかいう名前だった。
機械化された店、ぽつんと一人座った二人がけの席。
同じ形で、同じ色で、確かに同じ菓子だったに違いないのだけれど。はくりと一口、口に運んだそれは、なんだかひどく味気なかったのを、よく覚えている。]*