―― 回想 / ゲオルグと ――
[あの船に乗ってから、どれくらい経った頃だったか。>>144
物覚えがそれほど良くない自分でもはっきりと覚えているのは、硝子の容器にこれでもかと盛り付けられたクリームとスポンジとショートケーキ。
色とりどりのベリーとソースに彩られた特大のパフェと、後ろ姿でも想像できる、きっとご満悦であろうアイツの様子。
後ろから猫のようにさっと忍び寄り、フォークをきらりと閃かせるも、頂上の赤い実を攫おうとした銀の切っ先は、横合いからの見事なフォーク捌きに、済んでのところで弾かれた]
あー、もうちょっとだったのに!
度胸? おうとも。
男は度胸、っていうんだろ?
[さも悔しそうにぷすー、と頬を膨らませる。
低い脅し声と笑顔に、何の本を読んだものか、そんなフレーズを口にして、にいっと笑みを返した。
そのイチゴ貰い受けるとばかりに、全身臨戦態勢だ。
その日も一進一退の攻防だった。
食堂の椅子やテーブルを、時には目くらましに、時には足掛かりに飛び回りながら、あらゆる角度から甘味を狙ったりフォークで打ちあったり。
もしかしたら、守るものがある分、向こうに分が悪い勝負だったかもしれないけれど。]