[男は一人の孤児を育てている。
豊穣の村を訪れた親から計画的に遺棄された男の子。辛い境遇を背負いつつも、涙一つこぼさず口一つ言わず、歯を食いしばって生きている姿に、穂だだれたのだ。]
「父さん、今日はもう休んでくれよ。あとの仕事は僕がやっておくから。」
[年々無理できなくなる体を心配して、次男はいつも男を気遣ってくれる。
それに感謝している男は、”お前は俺のような馬鹿には育たないだろうな”と感謝しつつ。決して口にはできなかったが、長男のことを考えていた。]
(あいつのことだから、村の人たちに顔向けできない馬鹿やらかして、俺が見つける前に神父様連れて逃げ出したんだろう。)
[薄々真実を察している男は、それでもわが子が生き延びた先で幸せになって欲しいと祈れる己に罪悪感が拭えなかった。
――今年も村に、いつもと変わらぬ春がやってくる。*]