―ヨアヒムの部屋の前―
[ペーターに関わる騒動を尻目に、談話室を後にして、ヨアヒムの部屋の前まで移動する。論理も何もあったものじゃない。と、侮蔑するような言葉でも置いていこうかと考えたが、生憎と誰かを侮蔑できるような感情など持ち合わせていなかった。談話室でもほとんど気配を絶っていた己の移動に気が付いたものは、恐らくいないだろう。あの場は既に、“死”が圧倒的な存在感を誇示して、支配をはじめている。]
……。
[ヨアヒムの部屋には今、ニコラスもいるのだろう。話し声が聞こえる。もしものことがあるならば、すぐにでも突入を決め込もうと、感覚を研ぎ澄ませる。]
[…はそのまま、ヨアヒムの部屋の前でしばらくじっとしていただろうか。或いは、己の存在に気が付いたヨアヒムが招き入れてくることもあるかもしれない。とにかく今は――
――ただひたすらに極限にまで溜めこんだ“渇”きが辛かった。]