― 西の塔 ―[血子に視線は向けたまま、遣いに出した黒蝶へと僅かに気を注ぎ、同調を試みる。蝶が差し掛かるは城内の廊下、風を右腕に纏う男の頭上。ふらりと風に惑うように、一度だけ弧を描いて、音もなく行き過ぎる] ………、……?[円舞に翅を翻す蝶が伝えた、微かな違和感。警鐘よりも呼応に近い感覚は、余計に引っ掛かる。自分が呪を授けたのは、眼前の息子だけだ。厄介事を呼び込まぬよう、人里に降りる時も、双眸に宿す力は必ず抑えて――――いた、と断じるを阻む記憶が、唯一つだけあった]