迷うなら、全部持って行っても構いやしない。
貴方にそれを読むだけの時間があるのか、分からないけど。
返すはいつでもいいよ。内容はもう覚えているから。
[今、この部屋にいるのは二人きり。
室内に漂うのは紅茶と紙の匂いばかりで、城内の物音も遠い。
ゆったりと流れる時の中で、ウェルシュの言葉も表情も柔らかかった。]
……感謝、しているんだ。
貴方が私に、剣ではなく書の道を示してくれたからこそ。
今の私があるのだから。
[ぽつ。と懐かし気に本の表紙を眺めながら落としたのは、遠い昔を辿る言葉。淡い微笑みを浮かべながら本の表紙を撫で、それを書棚に戻して。]