[ かつて、ムスペルヘイムで脱走した『スルト』を捜していた時のこと。
ひとりの泣きじゃくる少年に声を掛けたことがあった。]
どうしたんだい? 迷子?
僕も一緒に探すよ。早く見つかるといいね。
[ 泣きじゃくる少年は全然泣いてくれずに。
その時は偶然血に塗れていなかったから。
一緒にその子の家を捜そうとしたのを覚えている。
結局あのまま見つからず、別れてしまったのだけれど。
その子が無事戻れて、元気で暮らしていければいいなと
思っていたけれど、もう何十年も前のこと。
生きていれば立派な大人になっていることだろう。
どうしてこんな時にこんな昔のことを思い出したのだろう?
年を取ると記憶もあやふやにはなってくるけれど。
不思議なこともあるものだな。]