―…。
[弟は哀しげに笑う。
舞を芸とする少年が屋敷に訪れた頃から、弟は強くなった。
言葉で傷つけてもそんな風に笑って。
上手くいなされているように感じるのがまた…ベネディクトの憎しみを助長させた。
そうした悪連鎖が続いた末に、兄弟は分かたれた。]
…伯爵家を頼みます。
シャバンヌ家を…父上の家を潰さないで下さい。
さようなら、兄上。
どうかお元気で。
[それだけ言うと弟の姿はゆらりと動き、ベネディクトの頬に触れて額に接吻する。
一瞬の触れ合い。思わず目を閉じた兄が目を開いた時には、弟の姿は掻き消えていて。
只、血に濡れた守り刀と、絨毯に染み込んだ血痕が先刻の出来事が夢でないという事を示していた…。]