「は…?」
[死の間際に会う事を赦さなかった父からの遺言で、そして体面の為に残した伯爵籍。
それをいらないとわざわざ言いに来たのか。
伯爵…ベネディクト・シャバンヌは頭に血が上るのを感じた。
彼は母の事を苦しめる妾の子供が、父に愛される弟が憎かった。
小器用に何でもこなせる癖に、出来ないふりをする弟が。]
「馬鹿にしているのか。伯爵家の証がいらないなど…っ。」
―俺にはそれよりも大切なものが出来ましたから。
父上の遺品は手元にありますし。
[男は晴れやかに笑う。
それはかつて弟を見送りに来た兄のものと似ていたが、そこに自分に対する憎しみなど一滴も混じっていない事を窺わせた。
それに自分の醜さを見せつけられた気がして。
ベネディクトは激情に駆られて咄嗟に抽斗を探り、取り出した守り刀を弟に振りかざす。]