[それに気づいた男が腕を掴んだまま近くにある店に入る。
途惑うリヒャルトは手を振り払えぬままついていくしかなかった。
店で借りたのは洗面台で、男はリヒャルトの意思を汲まぬまま
汚れた手袋をすると脱がしてしまう。]
やめ、……っ
[止める言葉を咄嗟に向けるが流れる水が傷口に触れて痛みに声が途切れる。
男は手袋をしたまま応急処置を手早くこなす。
手当てされたのだと分かれば、リヒャルトは息を吐き]
ありがとう。
けれど勝手に触れないでくれないか。
同じ、なら、わかるだろう?
[言葉を濁し問えば相手の男は分からぬとばかりに首を傾げた。
小声で潔癖症、と付け足せば、男はからから笑って自分の手袋を外した。
男の素手がリヒャルトの頬に触れる。]