― 回想/数年前 ―
[人通りの多い街並みを完全防備でリヒャルトは歩いていた。
普段ならば人の少ない時間と道を選ぶのだが急ぎの用で渋々の外出だった。
前方から本を読みながら歩いてくる男が見えて避けようとしたが
相手も同じように、同じ方向に避けようとして運悪くぶつかってしまった。
その衝撃で後ろによろめき、そのまましりもちをつき、リヒャルトは涙目になる。
ふと差し出されるのは白い手袋を嵌めた男の手。
見上げれば本を片手に持つ、自分と同じ色の眸の男が手を貸そうとしていた。]
必要ない。
[憮然とした態度でリヒャルトは相手の厚意を突っぱねる。
自力で立とうとすると、男の手がリヒャルトの腕を掴み引き寄せた。]
〜〜〜っ!?
[勝手に触れるな、と怒鳴りたいが此処は街中と我慢する。
道についた手袋は汚れて布越しに擦り切れたのか血が滲んでいた。]