[彼が上着を脱いでいる、という姿に違和感を感じたのも一瞬、その上着が血で汚れていることを知る。
その際には、不思議と彼が手を殺めたという発想は一欠片も出てこず。
怪我も、通路で話したときに見た以上には、無さそうなその姿に、……被害者と共にいたことだけ知れた。]
……ダーフィト。
[その呟きは、周囲のざわめきに紛れただろう。
"よぉ"と、相変わらずの口調にも関わらず、ピリピリとした剣呑な、殺気ともいえる気配に、彼の怒りを感じるような気がした。
人狼に対してか、守れなかった自分に対してか。
犠牲者の名を聞き、ああ、その両方かとも思う。
ベルと呼び、ベルティルデと言い直した様子から。
まさか……彼女が。
礼儀正しく、いつも挨拶をしてくれる彼女。
深く知りはしないものの、身近な者の死に、爪が食い込むほどに拳を握り、目を閉じて僅かばかりの黙祷を捧げた。
そして、これ以上は犠牲は出せない……と、選択する決意を固める。
人を疑いたくはないが、こうして何の罪もない人が死んでゆくのだと思えば……。]