[もしかしたら、かつては何らかの文献で象という生き物について読んだことがあったかもしれない。古来の戦で、象が用いられたことも。
しかし、実物を目の当たりにしたことはなかった。
頭の片隅に置かれていたような、いないような、わずかな記憶と目の前の巨体がすぐに結びつかない。そもそも、目の当たりにした事態に動揺し、冷静に考える暇なんてなかった]
総員、散開!
迂闊に手を出すな、一時退却せよ!
[アイリ総督が飛ばす指令を受けて、尉官として自身に与えられた小隊を動かす。
対象は巨体で、しかも狂暴なようだ。果敢に立ち向かう騎馬や兵士を、長い丸太のような武器を振り回して次々と薙ぎ払う。
巨体を支える足は、一歩踏み出す度に地面が大きく揺らいだ。
周辺の木々が、根こそぎ倒され、倒木に躓いた馬や兵が雪崩打つように倒れる]