[豊作といえば、今年は花もいい出来だった。
と思いだすと同時に、村で暮らす小さな少女のことをちらりと思い浮かべる。>>131
この時期になるといつも彼女が花を買いに来る。
いつ来ても良いよう、留守にする際にはいつも農園の片隅にある、自宅を兼ねた小屋の玄関先に「代金はいつでも構わない」という内容のメモと共に花を置いていた。
『……わたしが育てた花じゃ、きっとお姉ちゃんは喜ばないから。』
いつだったか、こんなに遠くまで買いに来るくらいなら、自分で育ててみてはどうかと、花の種を分けようとしたことがある。
しかし、少女が目を伏せながらそう答えれば、それ以上何も言えなくなってしまった。
自分に語れない過去があるように、少女にも何か事情があるのだろう。
そうか、とだけ答え、もらった代金よりは少し多めに花を渡すだけにとどめた。]