[―数日後、さりげなくレトに探りを入れると彼は「覚えていない」と言った。
あぁ、彼がそうしたいなら。
自分も何も見ていない。そういう事にしよう。
そう心に決めて、男は笑ってレトの肩を叩いた。
掛けた言葉は「あんまり飲み過ぎるなよ」というもの。
何も知らない人間が聞けば、まるで酒宴でうっかり粗相でもしたかのように聞こえただろう。
―真実、彼の中でそうなればいいと思った。
聞き咎めたオズワルドに問われても内容は曖昧に誤魔化し。
以降はレトの事を時折からかいながら、脳裏に焼き付いたあの時の表情を塗り潰そうとした。
全て、無かった事にする為に。
閉ざされたこの場所で、彼が生きやすいように。*]