―宿―
[降り積もる雪に足を取られ、風に行く手を遮られながらも宿に辿り付いたのは、日頃の倍以上の時間をかけてから。
芯まで身体を冷やす風雪に、指先の感覚などはとうに失ってしまった。
悴む手で苦心してノブを捻り、雪まみれのまま宿の中へと身を滑らせる]
母ちゃん、母ちゃんここに居んのかー!?
[突如吹き込んできた雪に、扉の周囲にいた者はいい顔をしなかった。
構わずに、宿の中へ向かって声を張る。
見知った顔、見知らぬ顔。
宿の中に集まる人々を順に見詰めたけれど、その中に母の姿を見る事はできなかった。
……返事も、戻ってこない]